戯れ
2026/10/13 呉彦×煤竹十九
※R15
人の真似をして唇を軽く合わせるだけの行為が、だんだんと水音混じりに交わすものになっていったのはいつからだろう。
一つの生き物のように、呉彦の舌が煤竹の咥内を、歯並びをなぞっていく。逃げようとする煤竹の舌を舌先でつついてはぬろりと絡ませ、煤竹がつい鼻にかかった声を出す度に呉彦は楽しげに笑った。
煤竹がそんな戯れを許しているのは、今に飽きてやめるだろうと思っているからに過ぎない。まず恋人同士でもなければしないような行為だと言っても聞かないのだから、もう煤竹は諦めの境地に至っていた。まず、呉彦がさして深い意味もなくこうした行為を楽しんでいるのは理解している。生まれたての存在には人間でいう恋人も友人も皆同じようなもので「なかよし」のくくりなのだろう。
他意もなく彼にとって単なる遊びの一種なのだと理解すれば、まあ遊びに付き合ってやるのも年上の役目なのかもしれない。そう結論づけて、煤竹は今日も呉彦からの「ちゅー」を甘んじて受け入れていた。
さて、今日も今日とて呉彦からせがまれて付き合ってやっていた煤竹であったが、いつもより短い時間で呉彦が唇を解放したことにため息を吐いた。内心「ようやく飽きてきたか」と安堵した気持ちがあったのは否めない。人間ではないとは言え人間を模した身体では……こうも熱烈に口付けを交わす日々を送っていれば、なんだかむず痒い感覚が湧いてしまう、ような。あまり直視したいものではない、と煤竹はまた一つ息を吐いた。心なしか身体が少し熱いような錯覚さえして、するりと頬を撫でる呉彦の長い指にびく、と反応する我が身が憎く思える。
真正面に立つ呉彦の片手はずっと煤竹のほおをペタペタと触り、もう片方の手は煤竹の肩に添えられていた。「ちゅー」の時、煤竹を逃すまいと顔を固定し、執拗に貪るような口づけを繰り返す者とは思えない無邪気な笑み。煤竹はこの笑顔に弱い。だからここまでズルズルと「ちゅー」を続けてしまったようなものだ、と煤竹は思っている。
呉彦はニコッと笑いながら煤竹に向かって口を開く。
「しょうせい、今日はちがう遊びしたい」
「おお、良いぞ。何にする、花札か、将棋か、メンコもいいな」
「んー」
手慰みに煤竹の頬を触っていた手がそろりと動く。
頬から顎に。首筋に。さらに下、服の上をなぞって、胸元に。
その手つきがどうにも「遊ぶ」とは程遠い手つきに感じられて、煤竹は思わず体をこわばらせた。
「マスターが見てたテレビでやってたこと、してみたい」
軽やかに言う呉彦に、煤竹はなんとか言葉を絞り出す。
「……具体的には、何を?」
「口以外にもちゅーするの」
つい、と呉彦の指先がシャツ越しに煤竹の胸の先端を掠めていく。「ふ、」と煤竹が声を漏らしたのに呉彦はとてもとても嬉しそうに笑った。
「だめ?」
だめ、と言ってもやるだろうお前は。
煤竹は深く深くため息を吐き、「仕方がないなあ、お前は」と小さく言った。
どうせこんな戯れすぐ飽きるだろう、飽きるまで付き合ってやろう、と楽観的な、もしくはやや投げやりな心地で煤竹は自らのシャツのボタンに手をかけた。
(おわり)